ツアー訪問事業所

十文字に残る伝統の紙漉

十文字和紙職人 佐々木 清男さん
  • 事業内容
    十文字和紙の製作・農業

強く、優しく、美しい十文字和紙

 横手市十文字町。取材に訪れた7月、一面田んぼや畑に囲まれたのどかな景色の中、佐々木さんは小玉スイカの収穫に追われていた。佐々木さんが和紙を製作しているのは、12月から3月頃までの冬期間。ほかの期間は兼業農家として小玉スイカやチンゲン菜、枝豆などを育てて出荷している。

 「十文字和紙」は、秋田県横手市十文字町で200年以上前から続く伝統的な手仕事で創り上げられる和紙だ。明治時代の最盛期には50軒以上の家で紙漉きが行われていたが、現在では佐々木さんがただ一人の十文字和紙職人である。

 十文字和紙づくりは、楮(こうぞ)刈り、楮蒸かし、皮剥ぎ、そ皮とり、糊作りなど材料の仕込みも全て昔と同じであり、その全工程を職人の手のみで行う。佐々木さんが本格的に十文字和紙づくりを始めたのは、先代であるお父さんが亡くなった後とのこと。生活様式の変化とともに和紙の需要は減ってはいるが、和紙作品の愛好家は多い。しかし、残念ながら、現在唯一の十文字和紙職人佐々木家に後継者はいない。

中学校や幼稚園の卒業証書を十文字和紙で

 佐々木さんは、地元中学校生徒への紙漉き体験なども行っているが、数十年前から請け負っているのは、十文字和紙での中学校や幼稚園の卒業証書製作である。厚みがあるのに柔らかく、何といっても和紙の手触りと重厚感が素晴らしく、この卒業証書は大切にしようと思わせてくれる一枚になっている。この卒業証書作りが佐々木さんにとって冬の一大イベントとなっている。

 「生活の中に和紙の使い道がなくなってしまっても、こうやって記念になるものを十文字和紙で提供できることが喜びだね。和紙は材料作りが一番大変だから、その時期になると仲間が集まって作業を手伝ってくれるんだけど、そうやって伝統の作業をみんなでできることもやりがいのひとつだと思うよ。」

この仕事に向いている人とは?

 「何でもきちんと物事をこなせる人だなぁ。」と佐々木さんは言う。「漉く」というメインの作業よりも、楮を和紙の素材にするのが何倍も大変だ。その工程を、手を抜くことなくキッチリとこなせる人こそ、本当に和紙作りを愛せる人、向いている人なのだそうだ。

 今まで受け継がれてきた「十文字和紙」。「アートとしての繁栄も嬉しいけれど、灯篭や卒業証書のように、生活の一部として何かしら残ってくれればなぁ」と、はにかむ佐々木さん。笑顔と人柄に和紙のようなやさしさが滲み出ていた。

十文字和紙の可能性

 そんな佐々木さんの和紙を使ってランプなどのインテリア雑貨や、和紙を糸状にして反物などを作っている泉川 祐子さんにお話を伺った。

 泉川さんが十文字和紙と出会ったのは、小学校教師をしていた時社会科学習の授業で取り上げたのがきっかけ。以来十文字和紙との付き合いは30年以上になる。退職後に和紙を使った作品を作り始めて、和紙が持つ「強さ、やわらかさ」といった様々な表情に、さらに和紙の魅力の深さを感じている。

「十文字和紙は意外と地元の人も知らなかったりするので、まずは地元に人に知ってほしいという想いがあります。和紙は原料の楮から紙になるまでの工程が大変ですが、最近は佐々木さんのところに退職された方や、若い方々が手伝いに来てくれます。その方々との交流も楽しいんです。」

 さらに、これからの十文字和紙作品の可能性を伺った。

「十文字和紙を使って帽子や洋服のベストを作っている、渡辺弘子さん(※1)という方もいらっしゃいます。また、最近は若い方々が新しい感性でブローチなどのアクセサリーを作っています。こういった様々な形で十文字和紙にかかわってくれる方が増えるのは、とても嬉しいです。」

 兼業という多様な働き方で十文字和紙を作り続ける佐々木さん。そして、その和紙を活かして様々な商品を作る方々。そのコミュニティは優しく温かくつながっていて、そこには十文字和紙のこれからの新たな可能性を垣間見ることができた。

泉川 祐子さんと作品

 

※1 渡辺 弘子さんの作品はこちらから

http://washi-wayu.blogspot.com/

 

 

紹介映像