ツアー訪問事業所

自然の恵みをかたちに

あけびづる細工職人 中川原 信一さん
  • 事業内容
    あけびづる細工工芸品の製造

予約の取れない手仕事の籠

 民家のリビングの一室に艶々と光る籠が所狭しと並んでいる。さり気なく並べられている籠たちは、なかなか手に入らないあけびづる細工の逸品だ。そんな工芸品を作り続けている中川原さんにお話を聞いた。

 あけびづる細工は、秋田では美郷町が発祥であり、100年以上前から農家の副業として作り続けられている工芸品。中川原さんも父である先代から技法を受け継いだ。あけびづるを型や接着剤を使うこともなく、まるで流れるように編んでいく。自然な丸みを帯びていて編み目も美しい仕上がりは、あけびづる細工の第一人者である中川原さんの職人としての卓越した感覚と技術によるものだ。

 しかしご本人はこう言う。

「私も父の手伝いをしながら自然に覚えましたから。特別な技術じゃないですよ。丁寧に編むこと。それができれば誰でもできると思います。丁寧に作るがゆえに、その人の個性や特徴が籠に出ますけれどもね。」

それは自然からの恩恵

 良い籠を編むには、良いつるが必要だ。

 あけびのつるを山に採りに行く時期は9月から11月初旬まで。この期間に、一年分の材料を採ることになる。つるは地面を這うように伸びていて、横手の山に生息するものは、自然環境や土壌の条件などから、とても良質なものだそうだ。採ってきたつるは、根や葉を丁寧に取り除き10日間ほど天日干しにし、2ヵ月以上陰干しにする。そうして3ヵ月以上かけて下準備したものを、編む作業に入るときに使う分だけ水で戻す。こうした準備があるからこそ、つるが丈夫な素材となり、長年使用できる籠へと変身できるのである。

 「自然のものを使って商品を生み出すには、職人も手間を惜しんではいけないでしょう。秋田の雄大な自然の恩恵を受けている立場ですから。籠を編んで出た端材もムダにはできない。その気持ちは常に持って仕事しています。」

この仕事に向いている人とは?

 「うちの父も言っていましたが、やる気と根気があればできる仕事ですよ。センスよりも丁寧に作ろうと思えばできると思います。」と話しながらも次々と形になっていく中川原さんの籠。しかしその速さの中、手や足、体全体をしっかり使ってつるをキュッキュッとひと編みずつ編んでいく姿は丁寧そのものだった。

この仕事の魅力とは?

「やっぱり、大切に使ってくれる方がいるから頑張って作ろうと思いますよね。長く愛してもらえるよう心を込めて、これからも作り続けます。月並みな言い方ですが、この仕事は私の生きがいです。人に喜んでもらえるものを、自分の手で生み出せる喜びはかけがえのないものですね。」

あけびづる細工の技術継承について

 現在、専従のあけびづる細工職人は国内においても中川原さん一人となっている。こんなにも美しい籠と秋田が誇る匠の技がなくなってしまうのは非常に残念である。中川原さんも技術の継承については前向きに考えてくださっており、自身がこの工芸品だけで食べていけるようになるまでの長い年月を要した経験から、このように言っている「あけびづる細工への携わりかたとして、他に仕事を持ちながら技術を学び磨いていくという、方法もありますね。」

 中川原さんの籠は全国の民芸品店に卸されてはいるが、瞬時に無くなってしまうため、目にすることさえ難しいそうだ。予約でも5年待ちが普通という状況。そう考えると、取材時の目の前に籠がたくさんあった状況はものすごい贅沢なのだろう。そんなすごい職人にもかかわらず、常に謙虚な姿勢を貫く中川原さんの人柄が染み込んだ籠は、より一層輝きを増して見えた。

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